秘境の王国 ブータンを訪ねる

ベンガル湾から吸い上げられた大量の水蒸気は、ヒマラヤ山系にぶつかり大量の雨をブータン王国に降り注ぐ。国土の広さは九州規模の、人口67万人の小王国ブータン、切手王国として知る人ぞ知る。

8世紀チベットからやってきた一人の密教高僧グル・リンポチェが築いたという3千mの絶壁中腹にそびえるタクツァン僧院は、ブータン王国におけるチベット密教の歴史の深さを今も偲ばせている。


世界最貧国のひとつでありながら、国民幸福度は98%と驚くべき数字を達成している秘境王国ブータン。最近まで年間観光客を2千人までと制限し、近代化の波に飲み込まれないように、国王は国の隅々まで王政管理を慎重に推進させてきた。


この国に初めて注目したのは、2007年学士会会報に載った、西水美恵子氏「ブータン王国に学ぶリーダーシップの形」を読んだ時であった。曰く「世界中の国のほとんどは、国家の目的、政策の目的を経済成長で豊かになることに置いています。しかしブータン王国は、それは国家の目的ではないとはっきり断言しています」と。一瞬 意表を突かれた衝撃を受けた。


この5月、名古屋哲学セミナー吉田先生は、今枝由郎氏「ブータンに魅せられて」(岩波新書)をとり上げ、国民総幸福を提唱するブータンは、「豊かさ」について、独自の哲学を展開していると述べて、国民の幸福とは何だろうと問いかけられた。この瞬間よりブータン国民の実相をこの目で見てみたいと思い始めた。

偶然の機会に、JICAでブータンに5年間も滞在している大学後輩がいることを知り、「よし、ブータンに行って、自分の目で国民の幸福とは何かを確かめてみよう」と決断し、早速旅行手続きを進めた。山間の狭い空港に機が着陸したのは、2009年7月 もう雨期の最中に入っていた。


1000mにも満たない滑走路こそが、この国の唯一の直線道路という山間小国、狭い道路はくねくねと山中を上下し、20人乗りワゴン車が、この国唯一最大のツアー専用車とのこと、乗車するお客は絶壁のはるか谷底をおそるおそる覗きこみ、息を呑む。


旅行中、400枚もの写真の大半は、子ども達の純真な顔付きに魅せられた。僧院で学ぶ子ども達の目にも、通学途上の子ども達の目にも、段々畑のあぜ道を遊びまわる子ども達の目にも、素直な子ども達だけが持つことが出来る純真な輝きがあった。



無限の緑は美しく大自然に広がり、点々と散らばる白壁の農家の庭先までには、道といえるほどの道もなく、いずこも、良くぞあんな高地に家を建てたものだと、首を傾げたくなる。家々の門には男性性器のいきり立つシンボルが飾られ写真家の絶好な対象物になっている。今も残る夜這婚制度は若い男女の胸をときめかせ、良くぞあの高い窓から若者は忍ぶ込むことが出来るものだと不思議にさえ思う。


JICAの友人と、一晩ゆっくりと語り合った。「この国の子ども達の目の美しさは本当に素晴らしい」。こんな言葉の中にも、後輩氏のこの国に対する愛情の深さが偲ばれる。国民幸福度についてどう思うかとの質問に対して、「、国民幸福度は国家幸福度と、人民幸福度を分けて考えてみる必要があると思います。財としては非常に貧しく、決して人々の生活は楽ではありませんが、国民はこの質素な生活に宗教的克己心で充分に満足しています。しかし、これからどんどんと海外からお客さんがブータンに入ってこられ消費快楽の刺激を与え続けていけば、人民は何時までも宗教的克己心だけで幸福を満足していけるかどうか、それは疑問です」との回答であった。


ツアー一行の中に過日キューバを訪問された、一人のご婦人がみえた。曰く 「 同じ世界最貧国でありながら、2国共に国民幸福度は非常に高い。しかし、キューバ国民は、自分達で勝ち取った民主主義の土台の上に毎日の生活があり、一方ブータン国民は賢明な国王によって上から与えた民主化によって幸福に浸っています。しかし、この2国は根本的に違うと思います。自分で勝ち取った民主主義は、未来に通じても守り抜かれるでしょうが、上からの与えられた民主主義は、常に弱さと不安が潜在しています。この弱さと不安をブータン国民は自分の力でこれからどうやって乗り切って行くのでしょうね?」と穏やかに語られる言葉の中に、今回の旅の結論が見えているような気がした。


ブータン旅行で一番印象に残ったのは、3千mの絶壁に建つタクツアン僧院に、中高年ツアー全員が登頂に成功出来たこと。ガイド氏も、全員が登頂されたのは、今回のツアーが初めてですと褒めてくれた。僕も、この僧院を仰ぎながら、チベット密教の歴史の深さを偲びつつ、スケッチを楽しむ時間が持てたことは、この旅最大の感動でもあった。


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秘境の王国・ブータンを訪ねる



山間にかろうじて開いたブータン唯一の空港

飛行機からは全員タラップを降りる

狭い空港で早速を録りまくる観光客

山間にぽつんぽつんと住居が見える

国の中央はこの一本の川

どこの家の玄関もこんな様子

我々のホテルがあった中心街

見かけた少年のあどけない顔

市場で遊ぶ子ども達

ブータン王国宮殿

ブータン王国宮殿

宮殿内を歩く僧侶

ブータン宮殿を山上より見下ろす

家の門に飾られた魔除けとシンボル

山の高きにあるタクツアン僧院

ブータンの踊り

ブータンの僧院

ブータンの意匠


旅スケッチこぼれ話 第10話  3つの最貧国を訪ねて思うこと


リーダの太田技術士はモンゴルカシミヤ産業育成に携わってきた技術士。首都ウランバートルから僻地ゴビ砂漠へは、特別寝台列車を4日間も借り切って、まさに国家VIP待遇。砂漠の真ん中には、恐竜の実物化石がごろごろ転がっている。モンゴルには大自然がある、

砂漠の朝、ゲルから日の出を見る。全員が無言で立ち尽くす。大自然はなんて美しいのだ。エーデルワイスを始め高山植物が草原に群生している。国民の3分の1は、首都に集中し、このままでは首都はスラム化していく。太田技術士の役目は大きい。


モンゴルに続いて、世界最貧国ブータンを訪問。

世界最貧国でありながら、国民幸福度は98%の秘境王国ブータン。1000mにも満たない滑走路だけが、この国の唯一の直線道路。中高年では無理と言われた3千mの絶壁に建つタクツアン僧院にも登頂。今も「夜這い」が結婚の前提といわれる農民の生活文化。しかし消費快楽の刺激を与え続けていけば、ブータン国民は宗教的克己心だけでこの質素な生活に満足していけるかどうか。

ヒマラヤを この目で見てみたい」。ヒマラヤには地球創生のロマンが隠されている。「年間を通じてヒマラヤが一番美しく見えるのは乾期の1月でしょう」そう聞いて、1月早々ネパール・カトマンズを訪問。幾つもの古き寺院を訪ねる。バスを降りるとすかさず物乞いが擦り寄って来る。ヒンズー 神秘の世界にどっぷり遣っているネパールの人々。ネパールの雄大な大自然と 今も貧困生活にうごめく人々の群れ。

モンゴル、ブータン、ネパール こうした貧しい国々を訪問するたびに、日本に生きる嬉しさ、悦びが身にしみる。こんな生活感情は50年前初めて文革直後の中国訪問時にも実感。しかし今中国は日本を抜いてものすごいお金持ちの国になってしまった。

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