定年後の読書ノートより

15年戦争 ― 日本の歴史30 ― 伊藤 隆 著、小学館
かなり分厚い歴史概説書。記述は歴史事実を人物像と共に詳細に述べ、その歴史的価値判断はむしろ読む者の歴史観に委ねる書き方。そうした意味では読みにくい取っ付き難い概説書。しかしこの本のメインテーマは東大現代史グループが中心となって進めている、戦時体制下の日本経済管理体制の研究成果が判りやすく、この本には書いてある。伊藤助教授はそうした研究グループの中心人物。

1938年昭和13年(丁度自分が生まれた年)、昭和研究会の笠信太郎は「日本経済の再編成」を刊行、統制経済に対する理論的武器を与えた。この本は当時ベストセラーになり、その後の政府政策に一定の影響を及ぼした。笠の問題提起は次の如し。

物の分配統制管理だけでは駄目だ。生産の統制が必要なのだ。経理統制と利潤統制により、資本主義の自由主義的な側面を排除し、企業を営業本位、利潤本位から、生産本位、生産性向上本位に切り替えていかねばならない。資本の利潤追求を統制する。経営機能による生産力増強のために、資本と経営の分離を進める。この体制にて産業の全体会議(カルテル・トラスト)を組織し、独占利潤と生産力停滞のカルテル・トラストから一転して、高位の生産力と社会的な経営形態を発揮する。政府の管理による計画数字を各企業に割当て、生産品の統一的配給や原料資材の共同購入を行う。全体会議の上に最高経済会議を置き、ここで物資動員計画、生産力拡充計画、消費割り当てをおこない、生産本位の企業形態の上に、こうして下からの経済統制で官僚統制の弊害を除去する。

この考えは、正に、「資本主義の生産様式」をそのまま生かして、「資本主義の分配方式」を意識的替えていけば良いのではないかというデューリング氏の経済理論とどこか一致している。果たしてこの思想は有効なのか。興味在る資本主義の歴史的実験としてクローズアップされる。それではこうした理論的背景で出発した統制経済が、昭和13年以後の日本経済に如何に結果し、どのような問題に直面していくか、それがこの分厚い歴史書を読む楽しみである。

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