定年後の読書ノートより
図録民具入門事典、宮本馨太郎著、柏書房
博物館における民具収集の意義と言うより、むしろ自分達博物館参観者の民具参観の意味を、著者は本書の中で、大変うまく書いておられる。

従来わが国では、一国の文化あるいは歴史について語ろうとする時、優れた個人や天才などの、ごく個性的、個人的な業績を取り上げて論議するのが普通であった。しかし、この個人的業績も、その所属している国民または民具の文化を離れて存在しているわけではなく、むしろそうした文化を基盤として成立している。つまりそういった文化の特質や歴史は、素朴な一般の人々の日常的事実、言い換えれば民族文化財にこそ見出せるといえよう。そして民具は、また具体的なものによってその文化を伝えることができる。生活文化の急激な変化は、我々の祖先が、その生活体験の蓄積の中で伝えてきたさまざまな民具の実用価値を奪い、日常生活の場から追いやった。その結果、文化や歴史を語る貴重な資料が失われようとしている。ここにおいて、その重要性を再認識するとともに、わが国の伝統文化の基盤としての民具の収集と保存の急務を自覚して欲しい。

小生はこれを読んで、随分いろいろと教えられた。しかし、まだまだ民具評価の位置づけは低いように思った。自分はいつもこう考えている。

人間の歴史は、その社会の生産力と生産諸関係が基礎となって発展してきた。生産力と生産諸関係を土台にして、人間は文化を創り、精神生活を営んできた。これを上部構造と呼べば、上部構造支えてきたのは生産力と生産諸関係である。生産力とは、その時代の人々がどんな道具で、どうやって物づくりをやってきたかであり、展示された民具は正にその時代の生産力の代表側面である。生産諸関係とは村民達の、お上や村民との絡みあいであり、展示されたお触れ書も名刀も祭りのクルマもそうした社会体制の側面を物語る。博物館で苦労して収集された数多くの民具をじっと観つめていると、民具が実際に使用されていたその時代の大衆の姿が見えてきて、声が聞け、語りかけてくる。これが民具展示の観方だと思う。僕は数多くの民具の中で、物づくりの土の香りが一番興味深い

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